技術シーズの棚卸しとは?自社技術の強みを「機能」から整理する5ステップと効率化のコツ
2026.10.21
「自社には優れた技術があるはずなのに、具体的にどのような技術資産を保有しているのか説明しきれない」「新規事業のテーマを探したいが、事業部ごとに技術情報が分散している」。研究開発(R&D)や技術企画の現場では、このような課題が起こりがちです。
そこで重要になるのが技術シーズの棚卸しです。ただし、保有する製品や研究テーマを一覧にするだけでは、その技術が持つ新たな可能性を十分に捉えられません。ポイントは、製品名から一歩踏み込み、「その技術で何ができるのか」という機能・強みを整理することです。
本記事では、技術シーズを棚卸しする目的、具体的な5ステップ、工数を抑える6つのコツを解説します。生成AIを活用した企業事例や、棚卸しした技術を新用途・新規事業につなげる考え方も紹介します。

技術シーズの棚卸しとは?目的と重要性
技術シーズは、製品になる前の知識やノウハウも含む技術資産
技術シーズとは、企業が持つ技術・知識のうち、製品開発や課題解決、事業化に活用できる可能性のあるものを指します。例えば、材料の配合技術、表面処理、精密加工、制御アルゴリズム、独自の製造プロセスなどです。
特許を取得した発明だけでなく、研究成果、実験データ、設計・量産化のノウハウ、設備を使いこなす知見なども、事業に活用できる技術資産となり得ます。
技術シーズの棚卸しは、こうした社内の技術資産を洗い出し、機能・性能・強み・保有部署・活用状況などの共通項目で整理し直す取り組みです。単なるリスト作成ではなく、「どこに、どのような強みがあるのか」を見えるようにする活動といえます。
棚卸しが技術戦略・新規事業につながる3つの理由
技術シーズを整理しておくことには、大きく3つの意義があります。
- 自社のコア技術を可視化できる: 部門ごとに散在する技術を俯瞰し、複数製品で使われている共通の技術基盤や競争優位性を把握しやすくなります。
- 未活用技術の可能性を見つけられる: 現在の製品では使われていない技術や、既存用途以外で活用できそうな機能を再評価できます。
- 研究開発の判断材料になる: 将来の研究テーマ、技術ロードマップ、投資優先順位、外部連携の検討に必要な情報を共有できます。
例えば、新規事業部門から「耐熱性が求められる用途を探している」と相談されたとき、技術が製品名だけで登録されていると候補を見つけにくくなります。一方、機能や性能で整理されていれば、他事業部の技術も含めて検討できます。
技術資産を事業化につなげる全体の流れについては、技術シーズ活用とは?事業化につなげる方法と実践プロセスでも解説しています。
製品名だけの棚卸しでは、技術の本当の強みを見落とす
「何を作っているか」だけでは、用途が既存市場に限定される
棚卸しを始める際、製品一覧や研究テーマ一覧をそのまま技術シーズ一覧にするケースがあります。これは出発点として有効ですが、製品名だけでは「何を実現できる技術か」が見えません。
例えば「食品包装用の高バリアフィルム」という製品名では、最初から食品包装の市場を思い浮かべてしまいます。しかし、その製品に使われる技術を「酸素や水蒸気の透過を抑制する薄膜形成技術」と捉えると、別の業界で求められる機能との接点を考えやすくなります。
「製品→技術→機能→顧客価値」で整理する
技術シーズを整理するときは、以下の4つを区別しましょう。
| 整理する視点 | 例:高バリアフィルム |
|---|---|
| 製品 | 食品包装向け高バリアフィルム |
| 技術 | 多層薄膜の形成・膜厚制御技術 |
| 機能 | 酸素や水蒸気の透過を抑える |
| 顧客価値 | 内容物を外部環境から保護し、品質劣化を抑える |
| 新用途の仮説 | 電子部品など、湿気への対策を要する製品の保護材 |
※上記は説明用の仮想例です。新用途として使用できるかは、求められる性能、規格、コスト等の検証が必要です。
機能は「〇〇を△△する」という動詞を含む表現にすると整理しやすくなります。例えば「高耐熱素材」なら「高温下でも形状を維持する」、「表面処理技術」なら「表面への汚れの付着を抑える」といった具合です。
重要なのは、抽象化して終わらせないことです。機能に加え、「何℃まで」「どの条件下で」「競合に対してどの程度優れるか」といった数値や根拠も記録します。これによって、用途を広げながら技術的な実現性も判断しやすくなります。
時にはR&D部門以外のメンバーと話をしてみるのもよいでしょう。技術に詳しくない方に説明するうえで、本質的にどのような機能であるかを言語化できる場合もあります。
製品に表れない「プロセス技術」も忘れずに
素材そのものの性能だけでなく、均一に塗る、微細に加工する、品質を安定させるといった製造・設計プロセスの技術にも独自の強みが存在します。製品の棚卸しだけでは見えにくい部分なので、工程や設備に蓄積されたノウハウも対象に含めることが重要です。
技術シーズの棚卸し方法|実践5ステップ
技術シーズの棚卸しは、最初から詳細な全社データベースを作ろうとすると負担が大きくなります。まず対象と目的を定め、共通のフォーマットで整理していきましょう。
STEP1|棚卸しの目的と対象範囲を決める
「新規事業テーマを見つけたい」「事業部をまたいでコア技術を共有したい」「研究開発投資を評価したい」など、目的を具体化します。
次に、対象となる部門や技術領域を決めます。初回は特定の研究領域や5〜10件程度のテーマを試行対象にし、記入項目や進め方を確認してから範囲を広げる方法もあります。5〜10件はあくまで進め方の一例で、適切な範囲は組織や技術の複雑さによって異なります。
STEP2|研究報告書・特許・社内資料から技術を洗い出す
既存の製品一覧、研究報告書、技術仕様書、特許情報、試験結果、過去の開発テーマなどを収集します。特許情報の確認には、J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)も利用できます。
ただし、資料に記載されていない暗黙知もあります。担当技術者へのヒアリングを組み合わせ、文書から把握できない製造条件や技術的な制約、開発の経緯を補います。
この段階では、細かな評価まで完了させようとせず、まず「どの技術がどこにあるか」を把握することを優先します。
STEP3|技術を「機能・性能・提供価値」に分解する
集めた情報を、製品名や専門用語から「何を、どうできる技術か」という言葉に置き換えます。基本は、製品・構成要素→保有技術→機能→顧客にとっての価値という順番です。
必要に応じて、機能を実現する仕組みや性能値も追加します。機能が複数ある技術は、一つにまとめず個別に記録すると、後から別の用途を検討しやすくなります。
STEP4|強みと制約条件を評価する
技術の強みを整理するときは「高性能」「独自技術」といった表現だけでは不十分です。できる限り比較対象や検証条件を明確にしましょう。
確認する観点は、例えば「性能・品質の独自性」「特許やノウハウによる優位性」「試作・量産の成熟度」「必要な設備・コスト」「使用環境や規格上の制約」です。
根拠が確認できた事実と、今後検証する仮説を分けて記録することが重要です。現時点で事業性が低い技術をすぐに削除するのではなく、制約と活用可能性を併記すると後の再評価に役立ちます。
STEP5|技術シーズ一覧表にまとめ、更新できる状態にする
情報の粒度をそろえて一覧化し、研究開発・技術企画・事業部門が参照できる状態にします。最初はExcelやスプレッドシートでも構いません。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 技術名・保有部署 | 薄膜形成技術/材料開発部 |
| 主な機能 | 酸素・水蒸気の透過を抑制する |
| 強み・根拠 | 膜厚制御の実験データあり/他社比較は要確認 |
| 制約条件 | 使用温度、耐久性、量産コストを要検証 |
| 現在の用途 | 食品包装用フィルム |
| 新用途の仮説 | 電子部品等の保護材料(未検証) |
| 担当者・更新日 | 技術担当者/最終更新日を記載 |
※記入例は架空の技術を想定したものです。
一覧表には、参照した資料、担当者、確認状況(未確認・確認中・確認済み)も残しておくと、追加調査や引き継ぎが容易になります。

技術シーズの棚卸しを効率化する6つのコツ
技術の棚卸しは、資料の収集、研究者への聞き取り、機能の言語化、評価のすり合わせなど、多くの工程を含みます。とくに製造業の大企業では、対象技術と関係者が多いため、進め方によって工数が大きく変わります。
大切なのは、棚卸しの「網羅性」だけを追うのではなく、その後の判断や用途探索に使える情報を、必要な深さで整えることです。
コツ1|最初から全技術を完璧に整理しない
最初に全社の技術資産を一度に網羅しようとすると、対象の選定や情報収集だけで時間がかかります。まずは目的に近い研究領域や、既存用途が限定されている技術群から小さく始める方法が有効です。
試行段階で「どこまで機能を分解するか」「何を根拠として記録するか」を決めておけば、その後の展開で記入のばらつきを抑えやすくなります。
コツ2|研究者にゼロから資料を作らせず、既存情報を活用する
技術者に新たな説明資料の作成を依頼する前に、事務局側で既存の研究資料や特許から基本情報を下書きしましょう。研究者には「内容の確認」「公開資料ではわからない強み・制約の補足」を依頼すると、負担を分散できます。
情報源と更新日を記載しておけば、後から根拠を確認する際にも役立ちます。
コツ3|記述ルールと粒度をそろえる
「耐熱樹脂」「熱に強い素材」「高温下で形状を維持する技術」のように、部署ごとに記述方法が異なると、横断検索や比較が難しくなります。
機能は「〇〇を△△する」、強みは「比較対象に対して〇〇が優れる」、制約は「〇〇の条件下では△△」など、基本的な書き方を統一するのがおすすめです。製品単位だけでなく、必要に応じて構成要素・工程単位にも分解します。
コツ4|一次棚卸しと詳細評価を分ける
すべての技術に同じ深さの調査を実施する必要はありません。例えば、以下の3段階に分けて進められます。
- 一次棚卸し: 技術名、保有部署、概要、既存用途を広く洗い出す。
- 二次棚卸し: 優先技術について機能・強み・根拠・制約を掘り下げる。
- 用途検討: 有望な機能から市場ニーズや新用途の仮説を探索する。
一次段階では不足情報を「要確認」として残し、必要性に応じて詳細を確認する方が、全体の作業を管理しやすくなります。
コツ5|生成AIで機能分解と情報整理の下書きを作る
生成AIは、既存資料の要点抽出、構成要素の洗い出し、機能の言い換え、表形式での整理などに活用できます。例えば、社内で使用を認められたAI環境で、次のように指示します。
次の技術資料について、「製品・構成要素」「保有技術」「機能(〇〇を△△する)」「根拠となる記述」「不明点」を表に整理してください。資料にない性能や優位性は推測せず、「要確認」と明記してください。
ただし、AIによる出力はあくまで下書きです。存在しない仕様や誇張された強みが混ざる可能性があるため、技術者が確認・修正する必要があります。未公開の技術情報を入力する際は、必ず自社の情報管理ルールに適合するAI環境を使用してください。
コツ6|更新担当者と更新タイミングを決める
棚卸しは一度完成したら終わりではありません。研究の進展、量産条件の変更、特許の取得、事業部の再編などによって情報は変化します。
各技術の更新責任者を決め、研究テーマのレビューや技術ロードマップの見直しなど、既存の業務に合わせて定期的に更新すると、大規模なやり直しを減らしやすくなります。
生成AIで技術棚卸しを効率化した企業事例|コニカミノルタ
生成AIを活用した技術棚卸しは、実際の製造業でも研究されています。
コニカミノルタが公表した2026年の技術論文「生成AIを活用した技術棚卸プロセスの構築と適用」では、従来の人手に依存した棚卸しが抱える、属人性や網羅性の課題への取り組みが紹介されています。
AIで機能を抽出し、技術者が検証するプロセス
同社の研究では、全社の製品リストから対象を整理したうえで、VE(価値工学)やFASTといった機能分解の考え方を活用。ChatGPTを使った「機能ばらしAI」で構成要素や機能を抽出し、「強み分析AI」で技術的な強みを整理しました。
強みは、部材・動作原理の技術と、設計・製造のプロセス技術の両面から捉え、最後に開発・設計担当者などへのヒアリングで結果を検証・補正しています。
棚卸しの先に、事業を横断するコア技術の可視化がある
この取り組みでは、成膜技術など、複数の事業で共通して活用される技術基盤や、その発展のつながりを可視化できたと報告されています。
一方、論文では全製品の棚卸しが完了したわけではなく、網羅性・精度・再現性などの定量評価は今後の課題とされています。したがって、特定の工数削減率が実証された事例として紹介するのは適切ではありません。
この事例が示す実務上のヒントは、AIに棚卸しの草案を作らせ、人が技術的な妥当性と独自性を判断するという役割分担です。技術者がゼロからすべてを記述するのではなく、確認と補正に時間を使える仕組みが重要になります。
棚卸しした技術シーズを新用途・新規事業につなげるには
棚卸しが完了しても、一覧表を作っただけでは新規事業にはつながりません。次に必要なのは、整理した機能を「どの顧客の、どの課題に活かせるか」という視点で見直すことです。
技術起点で「その機能を必要とする市場」を探す
例えば「水蒸気の透過を抑える技術」があれば、既存の食品包装市場だけでなく、湿気による品質劣化を避けたい製品や製造工程がないか探します。
ここでは「どの業界に使えそうか」を幅広く考え、用途の候補を仮説として列挙します。別市場での利用は、必要な性能、製造条件、規制、コストなどが違うため、適合性の確認が欠かせません。
顧客ニーズ起点で「その課題を解決できる技術」を考える
逆に、市場側で「高温環境でも変形しにくい部品が欲しい」「保管時の湿気による不具合を減らしたい」といった課題があれば、それを解決できる社内の機能・技術を探します。
技術起点とニーズ起点の両方から検討することで、これまで結びついていなかった自社技術と市場課題の接点を見つけやすくなります。
市場性・技術適合性・自社の強みで候補を評価する
見つかった用途候補については、「顧客課題が実在するか」「必要な要求スペックを満たせるか」「他の解決方法と比べた優位性があるか」を確認しましょう。必要に応じて市場調査、顧客へのヒアリング、試作・検証へ進みます。
具体的な用途探索の方法は技術用途探索の方法とは?を、テーマの事業性評価は技術テーマを事業化につなげるには?をご覧ください。
整理した技術の新用途探索には「AKCELI」という選択肢」
技術シーズの棚卸しによって強みや機能が見えてきたら、次はそれを活かせる用途・市場を探す段階です。この工程では、R&D・新規事業向けの用途探索AI「AKCELI(アクセリ)」を活用できます。
技術の特長・機能から新しい用途候補を探索
AKCELIは、保有する技術・素材の特長や機能を起点に、新しい用途や市場の候補を探索するサービスです。既存の製品名からは発想しにくい業界も含めて用途を広げ、検討のための情報を整理することを支援します。
たとえば棚卸しで「酸素や水蒸気の透過を抑える薄膜形成技術」という強みが見えてきた場合、その機能が求められる用途の候補を広げる入口として活用できます。
用途候補から要求スペックの調査にもつなげられる
新用途の候補が見つかったあとは、その用途に必要な機能や技術条件を把握することが重要です。AKCELIの「スペック調査」機能では、用途を起点に要求機能、具体的な要求スペックや規格、実現に向けた技術アプローチの候補を整理できます。
なお、AKCELIは社内の全技術を一元管理して棚卸しを自動完了させるシステムではありません。整理した技術の強みを、新しい市場ニーズや研究開発テーマの仮説につなげるための用途探索ツールです。棚卸しから次の事業機会探索へ進みたい場合に検討してみてください。

技術シーズの棚卸しに関するよくある質問
Q. 特許を取得していない技術も棚卸しの対象になりますか?
はい。特許だけでなく、研究開発で得た知見、製造条件、工程設計、量産ノウハウなども重要な技術資産になり得ます。社外に開示できない情報を含む場合は、機密区分や閲覧権限を設定したうえで管理しましょう。
Q. 技術シーズの棚卸しにはどのくらいの時間がかかりますか?
対象技術の数、資料の整備状況、関係部門の数、どこまで詳細に評価するかによって大きく異なります。一律の所要時間は示しにくいため、まず小規模な対象で試行し、技術1件あたりの情報収集・確認工数を測ったうえで全体の計画を立てることをおすすめします。
Q. 事業化の見込みが低い技術も一覧に残すべきですか?
原則として、棚卸し段階ですぐに除外する必要はありません。現時点では採算が合わなくても、技術の性能向上や市場ニーズの変化によって再評価できる可能性があります。「事業化の優先順位が低い」ことと「技術として価値がない」ことは分けて考えましょう。
Q. 技術シーズの棚卸しはどれくらいの頻度で更新すべきですか?
全社一律の正解はありません。新しい研究成果や特許、量産化の進展、担当者変更といった重要な変化があれば随時更新し、定期的な技術戦略や研究テーマの見直しに合わせて全体を確認すると運用しやすくなります。
まとめ|技術シーズの棚卸しは「機能の整理」から新用途探索へ
技術シーズの棚卸しは、研究開発テーマや製品を並べる作業ではなく、自社が保有する技術の強みを「何ができるか」という機能の視点で捉え直す取り組みです。
棚卸しを進める際は、目的を絞り、既存資料を活用し、記述ルールを統一することで負担を抑えやすくなります。生成AIを使う場合も、機能分解の下書きと技術者による確認を組み合わせることが大切です。
そして、整理した技術を新しい事業につなげるには、顧客課題や市場ニーズとの接点を探る「用途探索」が欠かせません。自社技術のまだ見ぬ使い道を検討したい方は、AKCELIの活用もぜひご検討ください。




